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Selfishly

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貴方がライバル! 1~5




~ 『 貴方がライバル! 』act 1 ~



 ここ最近は、ようやく首を竦めるような寒い風も遠ざかり
空気にごくごく小さな春の先触れを感じれる季節になってきた。

この日エドワードは、特に込み入った用件もなかったから、
本日の夕飯のメニューを思い浮かべながらの買い物を終わらせ、
帰宅している最中だった。

少年期に旅から旅続きで、自宅への食料を買って帰る・・・そんな当たり前の事が
なかった自分が、今では毎日とはいかないが、材料を吟味して持ち帰るのが
ここ最近の日課になっていることが――― おかしくて・・・、嬉しくなる。

目指す家までは、もう後少し。
今歩いている道を曲がれば、門が見えてくる。
官舎暮らしではあるが、邸と呼んで差し支えない一軒家は
少々広すぎるのが難儀ではあるが、庭も広く研究する部屋数も
書庫にする部屋も、十分に取れるのが気にいっている。

「あれ?」
邸の敷地内の端に塀を曲がり、ふと目に入ったのが門の前で中を窺っている
若い女性――― いや、まだ少女と呼んだほうが良いような年頃の女の子が一人。
何かの用事でやってきたのかな?
そう頭に思い浮かべながら、気持ち早めに歩いて近付いて行く。

近付く間にも、用心は怠らない。
上から下まで、そして周辺にも抜かりなく探りをいれる。

――― 歳は17,18歳。(エドワードと同い年くらいだろう)
    着ている物から、どうやら良家の子女のようだ。 ―――

特に武器を携帯している感じも、周囲に潜む気配もなく、
一般人らしいと判断すると、エドワードの緊張もやや落ち着いてくる。

「・・・あのぉ、何か御用ですか?」
そう、少し離れた場所で声をかけてみれば、その少女は地面から飛び上がらんばかりの勢いで
声を上げて驚いた。

「キャッーーー!!」
その声に逆にエドワードの方が、思わず手に持っている買い物袋を落としそうになる。
「なっ? な・・なんだ?」
目を白黒させて、引き気味の腰を何とか踏ん張って、目の前の少女の反応を窺う。
零れんばかりに目を見開いて、自分を見てきた少女に、エドワードはどう対応すれば良いのかと
戸惑いを濃くする。

少女はやはりどこかのご令嬢なのだろう。
身なりの良さに手入れの行き届いた容姿。小物1つも、自分では余り使わないが
似たような物を大量に贈られているので、それが高級ブランド品である事がわかる。
驚いたように自分を見ていた少女の視線が、徐々に険を含むものに変わっていき、
今では不躾なまでに、遠慮も微塵に感じさせないでエドワードを上から下まで
検分するかのように動いている。

「・・・何だよ、一体・・・」
その相手の態度に、不愉快そうに眉を寄せながら呟きを落とす。
「――――― あなた。エドワード・エルリックね」
不遜な断定の言葉に、エドワードは不快だと判る表情で返答する。
「そうだけど・・・、あんた誰?」
礼儀を失ってる者に、礼節を守る必要なし! そう判断したエドワードの態度は
どうみても、友好的な態度ではなかった。
それが気に触ったのか。
「あんた、ではありません! 私にはれっきとした、ユーヘミア・ウォーホールと言う
 名前があります!」
憤慨したように名乗られた名前に、エドワードは驚くような瞳で相手を見る。
「はぁ?」
呆気に取られて立ち尽くすエドワードに、ユーヘミアと名乗った少女は、
ビシッ!!! と空気を切り裂く音が聞こえそうな勢いで
エドワードを指差し。

「エドワード・エルリック! あなたがライバルですね!!!」
と声高らかに宣言した。




 *****


そろそろ定時の上がりの時間が近付いていると言うのに・・・。

ロイは深い溜息を吐きながら、目の前に座る二人の男女を見る。
帰り支度を始めようかという矢先に飛び込むようにやってきた急の来訪者は、
ロイとて知らない人間ではないが、かと言って来訪される理由があるわけでもない。

「・・・これはまた、急なご訪問でいらっしゃいますね。ウォーホールご夫妻」

ロイの切り出しに、ウォーホールと呼ばれた二人は、恐縮しきった様子で
頭を下げて挨拶をする。

「しかし・・・一体どのような件で?
 以前の件でしたら、あの時にご返事した通り、ご了承頂けたと思っておりましたが?」

勿論、ポーズではあるが・・・ロイは困惑した素振りを見せながら、
やんわりと訪問の意図を話す矛先を向ける。
恰幅が良く、身なりも上等の男性は、しきりと額に浮かぶ汗を手に握り締めているハンカチで
拭き拭き、「はぁ」「まぁ」と曖昧に相槌を打っている。
なかなか話し出さないウォーホールを前に、ロイは自分の機嫌を伝える為に
膝の上に組んだ指でトントントンと叩く仕草を続ける。

―― ったく・・・今更、一体・・・?
  今日は久々に早く上がれそうだと喜んでいたと言うのに・・・――

ジェスチャーのつもりで打ち鳴らしていた指が、壁にかかる時計の秒針が進んで
行くのを見ると、本気で苛ただしく動いていく。

「・・・あなた」
品の良い・・・とは少々言い難いのだが、どっしりとしたふくよかな女性は
度胸のある肝っ玉母さんのようだ。
言いよどんだままの夫を、肘で突いて急っ突いてみせる。

「うっ・・・・ゴホン」
と改まって空咳をしながら、漸く決心が付いたのかウォーホール氏はロイの方へと
視線を向ける。

「――――― 誠に申し訳ない!!!!」

そう大音量で叫ばれ、深々と頭を下げる夫婦に、ロイは呆気に取られたようになって
目の前の相手の行動を見つめるままになる。





 
「――― 成る程・・・、お話は大体判りました。
 が、ご存知の通り概に私は既婚者ですから、ご令嬢のお気持ちはどおであれ、
 対応できることでも、また―― して何とかしようとも、全く思っておりません。

 現在、私には過ぎるほど幸せだと思える日々を送っておりますから」

そう告げたときにロイの表情は、本当に満ち足りていて、思わず見ている者が
羨ましささえ抱きそうな空気を纏っている。

「――― それはもう・・・十分に存じております・・・。

 が、お恥かしい事ですが・・・・私には娘を止めれる力がないのです」

困り果てた表情で、ロイに縋るような視線を向けてくる。
「・・・しかし・・・」
戸惑うロイを前に、ウォーホール氏は机に額を擦り付ける勢いで平伏する。

「ご迷惑な事は重々承知です!
 が、そこを何とか、娘の気の済むまでで結構です!
 どうか、あなたのお邸に居候させてやって下さい!!!
 お願い致します!!!」

「――――― はっ・・・・?」

哀願された言葉の内容が不明で、思わずロイは珍しくも間の抜けた返答を零してしまった。







~ 『 貴方がライバル! 』act 2 ~



 ―― 事の始まり、数ヶ月前に遡る・・・――



「いいじゃろう。私の権限において許可しよう」

現大総統のグラマンの言葉に、ロイは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます! グラマン総統の恩情、決して忘れません」
その言葉は、常日頃使い慣れている美辞麗句などではなく、
ロイの心の底からの本心からの感謝の言葉と念だ。
「いいよ、君。
 先立ての北の戦では、君には色々と働いてもらったからねぇ。
 昇級とは別の褒賞に、好きなものをと言ったのはわしだから。

 ・・・まぁでも、―― まさか君がそんなことを願ってくるとは
 さすがのわしも考えが及ばなかったがね。
 が、いいじゃろう。それが君の希望なら、叶えれるうちにわしが叶えれるのも
 天の配剤じゃろうからな」

そう言って、ふぉふぉふぉと愉快そうに笑う。

「申し訳ありません。・・・この件で、色々とご心痛をかけるかも知れませんが・・・」
ロイの本意ではないが、確かにグラマンが言った通り、この機会を失えば
ロイの願いが叶うのは、更に先の未来になるか・・・その日が来ないかのどちらか
だったろうから。

そのロイの懸念に、グラマンはハタハタと手の平を顔の前で振る。
「そんな事は気にせんでも構わんよ。
 歳を取れば、多少の煩わしい羽音でも聞こえなくなるもんじゃ」
気遣うロイの思いを慮ってか、そう軽く応えてくれる。

「・・・・・・ありがとうございます」
ロイは再び、深く頭を下げる。

「いいの、いいの。これからの君の活躍に、またわしも楽させてもらうつもりだしね。
 
 ――― しかし、君・・・・・・意外に不器用だったんじゃな」

少しの驚きを交えてのグラマンの言葉に、ロイは苦笑を浮かべる。

「はい・・・・。 彼の事になると――― 昔から、器用になれた試しがありませんよ」

「ふぉふぉふぉ! それは良い!!
 巷の色男も、本命には形無しか!」

愉快そうな笑い声に、情け無い表情を浮かべて見せるが、ロイの瞳は喜びと
幸せに輝いている。
そのロイの表情に満足そうに頷いて、グラマンは改まった表情でロイに1つだけ
試練を与える。

「ではその件は、直ぐにも書面にして正式に提出しておこう。

 でだが・・・、1つだけ厄介な事があっての・・・」

にやりと笑うグラマンに、ロイは微かに眉を顰めて見返す。
昔からの付き合いだ。こういう場合の相手が、何かを愉しんでの事は
判っている。

「ウォーホールは知っておるな」
グラマンの意外な話に、ロイは怪訝な思いを浮かべながら返事を返す。
「それは・・・当然。
 何せ我が軍の『物資庫』と呼ばれている財団ですから・・・」
「そうそう、軍の物資から国外の交渉・輸入まで、一手に引き受けてる
 ウォーホール財団じゃ」

うんうんと生徒の回答に及第点を出す教師のように、グラマンは要約して
ロイの返答に肯定を示す。

「最近では、軍だけに飽き足らず、業態拡大とかで別の名前で一般向けの
 商いも始めたらしいが、なかなか好評と聞いておる」
「はぁ・・・」
話の矛先がいまいち判断しかねて、ロイは曖昧な相槌のみで余計な事は言わずにおく。
「で、じゃな。――― ウォーホールのご夫妻には、今年18歳。ピチピチじゃの。
 まぁその・・・ご令嬢がおってな」
器用に片目でウィンクして見せる。
そのグラマンの茶目っ気溢れる仕草を見せての話に、・・・ロイも何となく
伝えたい内容の先が見えてきた。
「そのご令嬢が、どうやら君にご執心らしくてなぁ、もてる男は羨ましいのぉ。
 で、ぜひ見合いの席を持ってくれと、私の方に泣きついてきての。
 プライベートの事なんで、わしにも返答の仕様がなかったんじゃが・・・。
 しかも、相手がウォーホール財団総帥からの直々の頼まれごとじゃ。
 そうそう粗雑な扱いもできん。

 が、今日の君の願いも聞かせてもらったから、その件は君の方から
 直接、交渉してもらおうか」

 ロイは「わかりました」と気の重くなるのを耐えて、返事を返したのだった。



 ウォーホール財団は、1代目の総帥が砂漠を渡る遊牧民の商隊から立ち上げ、
 僅か40年ほどで、アメトリス国でも最高の財団の確固たる地位を築いた企業だ。
『路傍の石でも価値を見出せ!』の創始者のウォーホールの社訓の元、
 今では軍の配給、支給、使用品から、戦場への補給に関するまで
 全てがウォーホール財団の『WH』の社印が捺されているまでになっている。
 そうなると、当然上層部との繋がりも深く長く。
 互いに持ちつ持たれつで、二人三脚で軍事国家に軍需企業として成長をしてきたのだが・・・。

 ―― しかし・・・、どこまでも商売人魂を信念として、軍との婚姻関係になるような事は
    避けてきていたはずなんだが・・・――

 そこら辺に、断りのチャンスがありそうで、ロイは総統の部屋を辞退した後に、
 ざっと今聞いた話をさらい、切り出し文句を考えていく。



*****

「ありがたいお話をお電話で済ませるご無礼をお許し下さい」

善は急げで掛けた先では、驚きに固まっている気配が伝わってくる。
「グラマン総統からのお話で、身に余る光栄なお話を頂いたとお伺いしました」
『・・・き、聞いて頂けましたか』
「はい、只今お伺いして戻ってきたところです」
『そ、そうですか・・・。で、お話を考慮して頂ける余地はありますかな?』
大企業で、軍にも影響力の強い財団の総帥だから、もっと居丈高なイメージを抱いていたが
意外に控えめな話し振りだ。
2代目は養子と聞いていたから、初代のインパクトの強い列伝とは違うのかも知れない。
「ウォーホール財団総帥からの直々のお話・・・、これ程栄誉なお話は、そうそう無いと思っております」
ロイの謙譲の美徳に飾られた言葉に、ウォーホールが嬉しそうに意気を上げる。
『では!?』
その出鼻を挫くように、ロイは間髪居れずに返答を返しておく。
「お気持ちに添えれれば良かったのですが・・・、私にはもう、心に決めた伴侶がおりまして。
 先程、総帥にも祝辞を賜り、結婚式の日取りも決まったばかりなのです」
『・・・・・・・・・・ それは・・・・・、おめでとうございますと
 お伝えせねばなりませんな・・・』
意気消沈した言葉の中にも、僅かに滲む気配は・・・安堵だろう。
「ありがとうございます。
 しかし・・・お伺いしましたところ、ご令嬢様は18歳におなりになったばかりとか。
 私のような年嵩の者が相手では、少々お可哀想なのでは?」
『・・・・・・ それは、私だち夫婦共々、そうは思ってもみましたが・・・・、
 最近の若い者の考えは、どうにも・・・理解に苦しみます』
ウォーホール氏の言葉に、ロイは自分の推測に間違いが無かった事を実感する。
「そうでしょうね。愛娘の幸せを望まぬ親はいないと思います。
 しかも・・・私が言うのも妙なものですが、軍人は危険な職業についております。
 財団の将来を考えてみても、それに相応しい先を託せる伴侶をお選びに
 なられた方が、後々のご令嬢の為でもあるかと思います」
そのロイの言葉は、たぶんウォーホール氏に心の代弁でもあるはずだ。
『・・・・・・・・。
 ご尤もなご意見だ・・・』
苦りきった言葉が、ロイの意見に賛同している内心を顕している。
「申し訳ありません。親の身にもならない若輩で、僭越な事を申しました・・・。
 浅慮な言葉とお許し頂ければ」
一応、軍との関係も深く、今後も関係を続ける事を余儀なくされている相手だ、
ロイは控えめに、礼儀正しく応えておく。
『いや・・・・・、言われた事身に染みました・・・。
 どうにも一人娘のせいか、―― 甘やかして育てすぎたツケがきたと言うか・・・』
「いえいえ、親御様のお気持ちとしては当然かと」
そんな心にも無いセリフを話しながらも、どうやら自分の思うとおりに話は
終われそうだと踏む。

その後少しばかり親の苦労話に付き合い、両者共々円満な終わりを迎えそうな雰囲気になる。

『で、老婆心ながらではありますが、ご高名な貴君の許婚になられる幸運な令嬢は
 どちらの御家の方で?』
親の考えで、縁談が結べない事は善しとしても、その相手がどれ程のものかは
気になるのだろう。
ロイは特に迷う事も無く、問われたままに答える。
どうせ今隠したところで、直ぐに知られる事柄だ。
「はい、実は・・・―――――」


ロイの返答に暫く沈黙の間が流れ、その後、成る程と納得したように呟かれる。

『それでは私の娘如きが、太刀打ちできなくて・・・・当然でしたな』
素直な褒め言葉以外にも、複雑なニュアンスが含まれているのは間違いないが、
ウォーホール氏は引き際を弁えてもいた。




*****

そんなやり取りさえ、帰宅についたロイの頭には、端にさえ残らず消えていった。
彼の頭の中には、約束を守ってくれたグラマン総統から届けられた1枚の婚姻証に
奪われている。
これを、帰り際に相手の家に寄ってサインを貰うだけで、ロイの念願の1つが叶うのだから。

そう・・・、愛しい恋人。そして、明日からの未来の伴侶。
エドワード・エルリックの署名を貰う為に、ロイの足取りは限りなく軽く、地面を
飛び歩くかの如きであったのだった。


拒絶に断固拒否・否定の姿勢をみせるエドワードから、ロイがどうやって
署名をもぎ取ったかは明らかにされてはいない。

それでも、内輪の者で開かれた結婚式では、満面の笑顔のロイと、
照れたように頬を赤らめ、始終不機嫌そうなふりをしていたエドワードが
揃って皆の祝辞を受けていたのであった。






~ 『 貴方がライバル! 』act 3 ~





それは40年程昔の話になる。
まだまだ国勢が微弱な頃、アメストリス国は近隣との諍いが絶えることが無かった。
その戦の中で敵に囲まれ孤立してしまった部隊があった。
補給を絶たれ、孤立無援に陥った部隊を助けたくとも、援護する戦力も薄く、
このままでは、その部隊1つを丸々見捨てる窮地に立たされた将軍が、
最後の頼みとして、物資の補給だけでもしてやることは出来ないかと考えた。

が・・・・・、戦況は苦しく、とても手持ちの軍勢から動かせるような状況ではなく、
考えに考えた末、莫大な報奨金を提示して民間からの輸送を請け負う者を募ったが、
もともと戦局が砂漠地帯でもあり、不慣れな土地を敵の包囲網を掻い潜って行こうという
命知らずの者は、アメストリス国内には誰一人居なかった。
アメストリスは豊かな気候に恵まれた国柄で、もともと好戦的な民族でもなかったから
それはそれで仕方ない事だったのかも知れない。

そこに、その話を聞きつけた一人の男が、将軍に謁見を望んでやってくる。
それが、現ウォーホール財団の創始者のユーへムだったのだ。
ユーへムはその頃、ただの砂漠を旅しての行商人だったに過ぎない。
が、将軍の出した難関の補給作戦を遂行し、―― 見事に成功を収めた。
それだけなら、それを要請した将軍も後々ユーへムに国籍を与え、
軍の軍需を預けるには至らなかっただろうが、ユーへムはそれだけで終わる人間では
ない才慮を具えた人材だったのだ。

彼は難関の物資の補給を行い、そして砂漠を熟知した経験を発揮して、
部隊丸々1つを、今度は逆に搬送してみせたのだった。

その彼の勇敢で機知に富んだ才覚に惚れこんだ将軍は、彼をアメストリスに連れ帰り
まずは自分の支部に、そして後には軍部全体へとユーヘムが能力を遺憾なく発揮できる
チャンスの基礎を与えたのだった。

それから40年あまり、ウォーホールの性を得て財団は大きく成長した。



*****


話は冒頭に戻る。

ロイは深々と下げられたウォーホール総帥の様子に、唖然として見守るばかりだ。

礼儀正しく下げられた二つの頭を眺めながら、ロイは今しがた頼まれた内容を反芻する。

――― 居候・・・。何故、そんな発想になるのだろうか・・・? ―――

縁談の話は、とうに断りをして、先方も了承済みのことだ。
しかもロイは既に結婚もしているのにだ。

今更、そのご令嬢とやらが納得していようが、していまいが、
概にロイには無関係の事だし、・・・・・現在、結婚3ヶ月目のハネムーンを
満喫している自分に・・・、自分達にとって、そんな大迷惑なこと・・・。
――― 了承できるわけないだろう? ―――

そんなロイの内心は、目の前に神妙に座っている夫妻を見る目にも表れていたのだろう、
気まずげに自分を窺う視線が片方から送られている。

「―――――― どうにも・・・。お話の流れがよく判らないのですが・・・・。
 これだけははっきりとお伝えできます。

 私にも出来ることと、出来ないことがあります。
 どのようなお考えでおっしゃったかは、理解しかねますが・・・・お断り致します」

そのロイの返答は当然の事だっただろう。
相手もそれは十分に予期していた事だろうが、それでも最後の頼みの綱を切られたように
沈痛な面持ちを見せる――― それもやはり、片方のみ。

「・・・・・・・・ おっしゃること、ご尤もです。
 私もこの頼みごとが、どれ程無茶難題かは判っているつもりです・・・。

 血の繋がりも無ければ、縁も所縁もない者を・・・・・・しかも、ご結婚されたばかりの
 ご家庭に居候させてくれなどと――― 常識の疑われる願い事だと・・・」

肩を落として力なく話される内容に、ロイはその通りだと言わんばかりに
頷きながら聞く。
それに・・・。

「よしんば、お受けしたとしても、・・・・私の家は所帯を持ったとは言え
 男二人です。そのような家に、未婚のうら若い女性が居候など・・・外聞にも
 響かれる行いでしょう?」

そのロイの言葉にも、ウォーホール総帥は力なく頷く。
「・・・・・判って・・・判っております、それはもう重々に。
 しかし・・・・・・・」

沈痛な様子を身に纏い意気消沈している総帥の横から、凛とした声が発せられる。

「あなた、ここから先は私が話しましょう」

先程から控える様に座っていた妻が、夫にそう告げると、ウォーホール総帥は
明らかにホッとしたような安堵の表情を妻に向ける。

その二人の短いやりとりで、主導権を持つのがどちらかが判る。

「マスタング閣下。閣下のお言葉、至極当然のこととは、私共とて判っております。
 が、『得れるものを得るまでは、前進あるのみ』の我が家の家訓に従い、
 祖父も私も・・・そして娘も手ぶらで引く様な無様な事は致して参りませんでした。
 例え目的のものが手に入らずとも、それに代わる自分が納得できるものを掴むまで
 諦めず進むのが、私共の血族の信念です」

きっぱりと言い切る女性の強さに、思わずロイは言葉をなくす。

「娘、ユーヘミアは亡き父の名を受け、血も濃く受け継いでいる娘です。
 私共や、周囲のものが何と言おうが、説得しようが、自身が納得行くものを得るまでは
 止めれないでしょう。

 ここはご迷惑なことと思いますが、閣下のご寛容な心におすがりするしかございません」

ご寛容か、ご狭量かなど・・・そんな事はロイの知った事ではない。
身内の不始末まで、赤の他人に押し付けるような家訓なら、捨てて粉々に粉砕したほうが
これからの周囲の人間の為に―― 主に、ロイの生活・・・新婚ライフの為には――
ありがたいではないか。

そんな思いを乗せて、雄雄しく座る目の前の女性を見返す。
そんなロイの剣呑な視線にも動じず、細君は視線を反らそうともせず受けている。

「では・・・・・あなた方の家訓に従って、迷惑は甘受せよと?」

そう伝えるロイの声には、権力を嵩に無茶を行使しようとする相手に対する
侮蔑が濃くなる。

「はい、誠に申し訳ない事ではありますが」

怯む事無い相手の受け答えに、ロイは一瞬、心の中に憎悪さえ浮かぶ。

「・・・・・・が、勿論、私共も覚悟を決めております。
 娘の不始末を親が片付けずに済ますわけには参りません。

 娘を引き止めることは、私共でも叶いませんが、
 あの子には――― この後、勘当し縁を切るつもりでございます」

迷い無く告げられた言葉に、横に座っていた夫君は悲壮な顔をして声を上げる。

「おっ・・・お前! それは余りにも・・・酷すぎやしないか」

泣きそうな表情で、横の妻に詰め寄る夫は、娘を溺愛しているのだろう・・・。

「あなた。あの娘はもう18歳。18歳といえば、自分の考えや行動に責任を
 持って望むのが当然です。
 その覚悟であの娘も望んだはずです。
 人様に多大なご迷惑を掛けて、のうのうと暮らすなど・・・そんな恥かしい事は、
 我らウォーホールの名に懸けて、許されませよ!」

ビシリと夫を叱りつけ、夫人はロイの方へと向き直り、深々と頭を下げる。
「私共の覚悟をお聞き頂き、その後のご判断や処置はお任せいたします。
 が・・・・・、あの娘の母親としての願いを叶えて頂けるなら、
 どのような処置を施されるにしても、――― 出来れば、少しのお時間でも構いません。
 あの娘の望む事をきいてやっては頂けませんでしょうか?」

そう語る婦人の目には、見まごう事無い親の子を思う愛情が宿っている。

――― しかしロイとて、狡猾な軍の人間関係で鍛えられてきた人間だ。
 傍迷惑なお家騒動を起こすような親の愛情に、そう簡単には絆されるわけも無い。
毅然とした態度で、断りを再度伝えようとした矢先。
先制のような夫人の爆弾発言に、心底仰天して大慌てさせられる事になった。

「―― それに、私の勘ですが・・・・・。娘はすでにお宅様に押しかけているのでは
 ないかと・・・」

その言葉に、ロイが飛び上がって電話に走ったのは、当然の行動だっただろう・・・。






~ 『 貴方がライバル! 』act 4~





来客中だった上司が、慌てて部屋から飛び出してきて補佐官控え室の電話に
走ったのに、ホークアイが僅かながらも動揺した証拠に、目を瞠ってその上司の
行動を見つめていた。

ロイはそんな彼女の様子を目の端に止め、説明は後!とばかりに自宅の番号を回す。
短いコールの後に、聞こえてきた声に思わず目を細める。

『はい、マスタングですが?』

愛しい人が、同性を名乗って出てくれる・・・・。
こんな状況だと言うのに、ロイは思わず心の中からじんわりと喜びが込上げてくるのを
噛み締めてしまった。
しかし、喜びに浸っている時間は僅かで、名乗っても答えない相手に対して不審そうに
『もしもし?』と呼びかけられ、ロイははっとなって大慌てで名乗りを上げる。

「エドワード、私だが・・・」
『ああ、あんたか。・・・なんだよ?』
怪訝そうなエドワードの問いかけに、ロイは慌てる原因となったウォーホール夫人の
懸念が大袈裟だったのかとほっと安堵の吐息を吐き出す。
「いや・・・・・。―― 何か変わった事はなかったかい?」
念の為にと聞いてみた言葉にも、エドワードは訝しむ気配を伝えては来るが、
『変わった事? ・・・・・別に無かったけど?』と返し、ますますロイを安心させた。

―― が、エドワードはもともと、少年期に激変の人生を渡ってきた。
   なので通常人とは、変わった事の範疇がかなり外れ、大概の事では動揺も
   驚きも無く受け止めてしまう。

   ・・・ 要するに、トラブル慣れしてしまっているのだ・・・と、
   ロイに再認識させることとなる。――

「そ・・・うか。なら良かった・・・。
 いや、すまないね、妙な事を訊ねて」

『別にいいけどさ・・・?
 で、今日は何時ごろに帰れそうなんだ?』
そのエドワードの問いに、ロイは気も軽くはずんだ声で返す。
「ああ、今日は珍しくも早く上がれるんで、そろそろ帰ろうかと思ってる」
久しぶりに二人でゆっくり過ごせる夜になると思うと、自然と口元も緩んでしまう。
『そっか。じゃあ大丈夫だな』
「大丈夫?」
何がだろうと思わず聞き返したロイは、先に安堵した自分を呪う。
『ああ。何かあんたにお客さん来てるぜ?』
そのエドワードの言葉に、思わず受話器を落としそうになる。
「きゃ、客ぅ~!?」
『そう。ユーヘミア・ウォーホールとか言う女だけど・・・さ。
 ・・・ロイ様・・・にお話があるって――待ってんだけど?』
エドワードにそう言われ、ロイは額と背筋に冷たい汗がつたう。
ロイ様の部分を強調して言う口調からして、エドワードがロイに対して含むものを
抱いているのは間違い無いだろう。

「か、彼女とは何でもない!!」
慌てて弁明した言葉の選び方が悪かったのか。
『彼女――とは・・・ね・・・』
と、エドワードの口調は更に冷たいものとなる。
「誤解だエドワード! 君と付き合い始めてからの私は潔白だ!!」
『ふ~ん・・・? まぁどっちでも良いけどさ。とにかく早く戻って、
 話とやら聞いてやれば? あいつ、何様だっつーくらい態度でかくて
 腹立つんだよ。―― さっさとケリつけてもらおうじゃないか・・・』
 不機嫌を前面に押し出したエドワードの口調に、ロイは情けない声を上げる。
「どっちでも良いは酷いだろう、エドワード!
 私は――― エドワード? エドワード、聞いてるのか!?」
口早に掛ける声に応えてくれたのは、ツーツーツーという通話終了の音声だけだった。

がっくりと力を落として受話器を置いて踵を返せば、ホークアイの刺さるような冷たい視線の
砲火を浴びる。

「・・・いや、これには事情が・・・」
思わず口篭るロイに、優秀な補佐官は厳しい返答を返してくる。
「・・・浮気争議は、自宅でお願い致します。ここは職場ですから。
 ――― 結婚して3ヶ月目で・・・・最低ですね」
「!?」
侮蔑の視線と言葉に愕然としている間にも、ホークアイはさっさと部屋を出て行ってしまう。

「違うと言ってるのに・・・・・・・」
残されたロイは虚しく弁明を続けるが・・・誰も聞いて、賛同してくれる者が居なかった。




が、立ち直りの早いのも彼の良い点だ。
こんな処でしょぼくれてる場合ではない。一刻も早く戻って、エドワードの誤解を解かなくては。
そうしなければ・・・・さらに悲惨な状態に落ち込んでしまう。
と、経験上理解していた。




*****

「もっと速く走れんのか!?」
送迎の車の中で、ロイは苛々と声を上げる。
「無理っすよぉー。軍の人間が交通規則を無視するわけにいかんでしょうが?」
長年付き従っている部下には、多少のロイの機嫌の悪さなど気にもならないようだ。
「ちっ!」
品悪く舌打ちをするロイに、ハボックは苦笑してみせる。
「けど、准将・・・拙いっすよ。新婚3ヶ月目で浮気はいかんでしょ」
そう茶化すハボックも、別に本気で言っているわけではない。
この上司の一途な恋を身近で見守ってきたから、そんな事が無い事も
判っている。
「浮気などしてない! 最愛のエドワードがいるのに、そんな無駄をするか!?」
ハボックの軽口に、ロイは真剣に怒って返す。
「はっ? じゃあ、あれですか。結婚前に付き合ってた相手と清算できてなかったとか?」
ロイの華麗な過去を揶揄ってやる。
「馬鹿もの! そんなヘマを私がするわけがないだろうが、お前と一緒にするな。
 それに、エドワードとは結婚前から付き合ってたんだ。
 その頃から、エドワード一筋で余所見などする暇はなかった」
車のシートに踏ん反り返り、腕を組んで言い切るロイに、ハボックも上司の過去を
振り返ってみる。
「・・・・そういや・・・ないっすね」
ハボックが覚えているだけでも、エドワードとロイの付き合いは長かった。
その間、確かにこの上司の浮いた噂話はぴたりと鳴りを潜めていたのだから。
―― それに相手があの大将じゃ、浮気なんかばれようものなら
   准将が無傷で過ごせるはずも無かっただろうし・・・――
では一体、何の疑惑が浮き出ているのだろうか?
ハボックの内心の問いを読んだようにロイが一言呟く。

「・・・・ユーヘミア・ウォーホール令嬢だ」

「ああ! あん時の!」

合点がいったと返事を返すハボックに、ロイは不機嫌そうに黙り込む。

―― 全く、今更な面倒ごとを・・・。――

ロイはもう無駄話には付き合わずに、自分の思考に浸る。
ユーヘミアとの誤解は、話せばきちんと解ってもらえるだろう。
エドワードは短気なところもあるが、話を聞かない人間ではない。
筋道立てて話せば、妙な誤解などせずに納得してはくれるだろう。
が、頭で納得するのと不快に思う感情は別物だ。
今はただ、急な来訪者のユーヘミア譲が、エドワードの感情をこれ以上逆立ててないことを
祈るだけだ・・・。


ロイは苛々とした気持ちを抱えたまま、一刻も早く自宅に着く事を願い続けた。







~ 『 貴方がライバル! 』act 5~


 
 実は結婚3ヶ月間の中で、ロイは既に一度エドワードに里帰りをされている・・・。
正確には結婚後1週間目だ。

エドワードとロイの交際は年数的には数年に及ぶものだったが、この間
二人はとても清く正しいお付き合いをしていた。
躾けの良い母親の言いつけを守り、エドワードの貞操観念はとても・・・強固だった。

「そおいう事は、きちんとしてからでないと駄目!」と断られ続け、二人の恋人の
スキンシップは手を繋ぐ、挨拶代わりのフレンチキス止まりだった。
―― 今時の子でも、もっと進んでる・・・――
良性賢母の母親の躾けの良さに、賛美を贈ると同時に少しだけ――恨めしくなった事何十度何百回。

なので、正式に結婚して認められてからは・・・・・・箍が外れてしまったのだ。
初夜の翌日は当然、エドワードはベッドから出れない状態だったし、
強引に捻出した3日間の休みは、ロイはエドワードをベッドに縫い付けるのに熱中していた。
3日後、すっきりとした心持で出勤して行ったロイと反対に、エドワードは研究室を
休む事になったのだ。
漸く起き出せた頃にはロイがいそいそと戻って来ては、あの手この手で押し捲られ
またベッドへ逆戻りを繰り返すこと1週間目。
「てめえと暮らしてたら、俺が死ぬ!」の書置きを残され、エドワードはアルフォンスの
アパートへと逃げ込んでしまった。
元々ブラコンの弟だ。よれよれになってやってきた兄の様子に、目尻を吊り上げ
鬼畜で非道な(ロイの事だが)魔の手には返さないといきり立ち、ロイを窮地に追い込んだ。
門前払いされつつ通った1週間は―― ロイの過去の中でも、最高の最悪な惨めで侘しい期間になる。
漸く和解してもらえたが、その分色々と誓約を・・・主に夜の営みの・・・誓わされる事になったのだった。


車内のロイの頭の中では、その時の恐怖が走馬灯のように走っていく。
―― どうか、間に合ってくれ!――
と心の中で念じつつ、漸く見えてきた我が家へと縋るような視線を送り続ける。




*****

 ロイが車内で、そんな葛藤を抱いている頃。
エドワードとユーヘミアはと言うと・・・。

「ちょっと、エドワード・エルリック。いつまで客人を放り出してるんですか?
 お茶だけ出して、茶菓子も出さないなんて・・・。失礼じゃないですか」

電話を切って戻ったエドワードへの最初の言葉に、エドワードはカチンとなる。
「勝手に入り込んで来る様な、不躾いな客に出すような菓子はない!」
語気強く、きっぱりと断ると、ユーヘミアの顔に不満そうな表情が浮かぶ。
「あいつ・・・ロイはもうじき戻ってくるそうだから、それまで大人しく座ってろ」
そう告げると、もう彼女には関わらずにキッチンへと向かう。
そろそろ夕飯の準備にかからないと、折角今日の為に準備した材料が駄目になる。
不快な気持ちを持て余しながらも、エドワードは前日から仕込んでいた鍋を取り出し
火に掛ける。
その間に買ってきたばかりの野菜を出し、洗って切ってと料理に集中していく内に
もやもやしていた気持ちも徐々に落ち着き、平静さを取り戻していく。

―― ウォーホールって・・・あの軍のに関係あんのかな? ――

身体はテキパキと働きながらも、エドワードの優秀な頭脳は回転している。
エドワードとて軍属の時があったから、軍との関係の深いウォーホールの名前は聞き知っている。
が、自分達兄弟には直接関係もなかったから、興味を持つこともなかった名前だ。
ロイとの会話を思い出してみても、ウォーホールに関する話は出た事がなかったと思うから、
今回の事は ―― プライベート部分だろうな ―― 鋭い考察、いや妻(?)の勘で察する。

コトコトコトと鍋が煮えてくると、そこら中にいい匂いが漂い始める。
今日はエドワードの好きなシチューを食べようと、前日から念入りに下拵えして煮込んでいたのだ。
短時間で煮込んでも美味しいシチューは出来るが、具を大きめにした物をとろとろになるまで
煮た物は格別だ。時間がかかる為そうそう作れないが、比較的余裕がある時には作るようにしている。

―― ロイも、こっちのシチュー、好きだもんな ――

 なにやかんやと言いながらも、やはり同性という障害を越えてでも一緒になるほどには
好きな相手なのだから。


「美味しそうな匂いですね」
 
背後から掛けられた声に、エドワードは危うく包丁を取り落としそうになる。
「なっ・・・なんだ、急に!」
―― そうか、こいつが居たんだっけ・・・――

料理に熱中する余り、思わず頭の中から消し去っていた相手が、興味深そうに
エドワードの手元を覗き込んでいる。

「それ、あなたが?」
鍋を指差して聞いてくるユーヘミアに、エドワードはぶっきらぼうに返事を返す。
「見てりゃー判るだろ。ここには俺しかいないんだから」
エドワードの愛想のない言葉も気にする事無く、ユーヘミアはしきりと「へー」
「ほー」と感心している。

「な、何だよ?」
相手の反応に、エドワードは引き気味に尋ねる。
「それ、ちょっと味見させてくれません?」
それと差された鍋にエドワードは視線を向け、脱力しつつも小皿に取って渡してやる。
―― こいつ、本当に良家のお嬢さんなのかよ?――
妙に好奇心の強そうな少女は、嬉しそうに小皿を受け取ると、フーフーと息を吹きかけ
冷ましてから、口を付ける。
そんなユーヘミアの様子を窺うように、エドワードは見守る。
やっぱり、第3者の意見は気になるものなのだ。
結構、料理の腕には自信もあるし、食べた者たちからの評判も良い。
が、それは主に身内ばかりという事もあって、身びいきも含まれるだろうから。

コクコクと小皿の中身を飲み干すと、ユーヘミアは名残惜しそうに小皿に残っているシチューを
ペロリと嘗め取る。
そして。
「んーーーー。凄く美味しい!!」
パッと明るい満面の笑顔と素直な賛辞をエドワードに向けてくる。

―― ロイのいつも聞かせられる美辞賛辞より、嬉しいかも・・・――

と、少し失礼なことを思いつつ、「そうか?」と照れながら小皿を受け取る。
そして、少しだけこの少女の印象を良くした次に・・・。

「私もシチューが大好きなの! よかったぁ~」
と嬉しそうに告げられた言葉に、エドワードは内心首を傾げる。
「これなら、今日の晩ご飯楽しみになるわ」
無邪気に喜ぶユーヘミアの言葉に、エドワードは瞬く事数回。
「はっ? 晩ご飯?」
呆気に取られ、呟くエドワードに、ユーヘミアは邪気無い笑みで伝えてくる。
「ええ。だって、今日から私もここで暮らすんですもの」

「・・・・・・・・・・・・・・はぁ~!?」






ロイが飛び込むようにして入った家では、エドワードの大音響の叫び声が響き渡っていた。

「なんでお前が、一緒に暮らすんだよー!?」


ロイはガクリと項垂れて、弱弱しく扉を閉める。

―― 遅かったか・・・――






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